『Sweet Candy』 作:リョウキチさま
先程から、高耶が部屋の中をうろうろと歩き回っている。
おそらく直江は後五分程で着く。

「ううー。」

綺麗にラッピングされた袋を睨みつけて高耶が唸る。
先月のバレンタインの後、高耶が自分から言ったのだ。

「ホワイトデーは必ずオレがお礼する。オマエは絶対何も買ってくるな。」

そして、バレンタインの時は直江の家に行ったから、ホワイトデーは高耶の家にしようと言うところまで決めたのだ。

デパート買いに行った日。
ホワイトデーのコーナーでも、高耶は唸っていた。
は女性向きの可愛らしいものばかりで選ぶのにかなりの苦労をした。
どうにか選んでいざレジに持って行こうとすると、今度は直江の顔がチラついて「男に買うのだと店員にばれたらどうしよう」等と妙な意識をしてしまい、レジにたどり着くまでに三十分もかかってしまった。
そんな風に余計な苦労までして買ったキャンディー。
後は直江に「ありがとう」と言って渡せば良いだけだ。
それだけなのだが。
一体どうやって渡せば良いかでまた四苦八苦している。

「普通に……普通に自然に渡せばいいんだ……気にしない気にしない……。」

落ち着きなく部屋中をうろついては自分に暗示をかける。
暗示をかけながら今度は目を閉じて一人でブツブツいいながらイメージトレーニングを始める。

「えーと……直江が来たら、部屋に通して……座らせて……コーヒーとか淹れて……うんうん……あー、コーヒー出す時に一緒に出すか。……トレイに乗せてコーヒーと一緒にテーブルに置いて……いやいや、やっぱり手渡しがいいか……机の下に隠しておいて、直江が座ったら、えーと、えーとこうだな。『直江バレンタインの時はサンキューこれはオレからのお礼だ。』」

見事な棒読みで台詞を言って持っている袋を差し出す動作をする。
と。

「ありがとうございます。高耶さん。」
「え!?うわっ!!」

いきなり腕を掴まれて引き寄せられて、額に挨拶のようなキスをされた。
驚いて目を開けると目の前にイメージトレーニングの中に出演していた片割れがいた。

「お邪魔します。いえ、お邪魔しています。」
「な、な、な─────。」

『直江』と言いたいのだが、驚きすぎて言葉が出ない。
次の瞬間には恥ずかしすぎて、体温が一気に上昇する。
耳まで真っ赤にした高耶に直江がにっこりと微笑んだ。
高耶は直江が自分の家の合鍵を持っている事を忘れていた。
いや、まさか合鍵で入ってくるとは思ってもいなかった。
確かに、直江も元々合鍵で勝手に入るつもりはなく、きちんとチャイムを鳴らし、返事がないのでドアをノックし、少なくとも三分はドアの前で待っていたのだが一向に高耶が出てくる気配がなかった為に合鍵で入ってきたのだ。
部屋に入ったら高耶が部屋の真ん中に向かって直江の名前を呼びながら袋を差し出していたと言うわけだ。

「ううー!」

ますます真っ赤になって直江の腕を振り解こうとする高耶を、逆にすっぽりと腕の中に包む。

「高耶さん。」
「うー……。」

直江に抱きしめられると、今度は胸に顔を押し付けて顔を上げようとしない。

「高耶さん。」
「うー。」

直江の声に反応するようにもぞもぞと腕の中で動き、自分と直江の間に挟まれている袋を直江の顔に押し付けた。

「高耶さん、前が見えません。」
「……見なくて、いい……。」
「あなたの顔も見られない。」
「オレの顔を見られたくないんだ!」
「つれないですね。」
「いいから!黙って聞け!」
「はい。」

直江の顔に袋を押し付けたまま、顔を上げて袋に覆われている直江の顔を見る。
それから大きく息を吸って、吐いて、もう一回大きく息を吸う。

「直江、バレンタインの時はサンキュー。これはオレからのお礼。」

乾ききった喉の所為で少し掠れてしまったけれど、棒読みではない、ホンモノの言葉。
言い終わって息を吐いて、また大きく息を吸って。
直江の顔から袋を一瞬外して少しだけ背伸びをしてキスをした。

「高……っ。」

直江が言い終わらないウチに再びばふっと袋が顔に押し当てられる。

「……これも……お礼……だ。」
「高耶さん……。」

笑い交じりの溜め息をついて、直江が高耶の手から袋を取り上げる。

「あ……っ。」

ずっと袋越しに直江の顔を見ていたので、ばっちり目が合ってしまった。
直江はこれ以上ないくらいの笑顔で高耶を見ていた。

「ありがとうございます。これは、私のモノですから頂きますよ。」
「うう……。」

すっかり首まで赤くなって俯いてしまいそうになる高耶の顎を捉えて、半ば強引に上を向かせてキスをした。
唇と頬。それから額。鼻。
高耶のいたるところにキスを降らせて、最後に耳元でこう囁いた。

「愛してますよ……どんなスイーツよりも甘い高耶さん。」

あまりの台詞に、また一度体温が上がった気がした高耶だった。

「うー……。」





end
「Sweet Honey Candy」のリョウキチ様からいただきましたvv
唸る高耶さんが、もう可愛くて、、、。
ああ、、、自分からキスしてるっ!!!きゃぁ〜〜〜っ!
もう、甘々の王道にクラクラよっ! 小菅


↓は、こちらは723キリリク絵の別バージョンです。


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