通りかかったのは、ほんの偶然。 隠遁を気取る知己を訪ねようと入り込んだ郊外の路地の奥、似たような垣根の続く一画で目に飛び込んできた彩り。 透明な秋の陽射しに輝く、錆朱の色した菊花の一群れ。 野放図に草の生い茂る荒れ果てた庭の中、そこだけが艶やかに華やいで見えた。 その光景に目を奪われ、垣根越し凝と佇んでいた自分の姿はさぞ奇異に映ったのだろう。やがて住人らしいまだ若い青年が縁側から現れた。 「なにか御用ですか?」 言葉遣いこそ丁寧だが、警戒と不審を露にした問い掛け。 弁解しようと視線を移して、再度、目を奪われた。 その人こそが高耶だった。 一目惚れだったのだと思う。 何をどう話したのか、覚えていない。 その強い視線に魅入られたまま、しどろもどろに言葉を重ねてどうやら怪しい者ではないと解ってもらえたらしい。それとも単に厄介払いをしたかっただけなのか。 彼は一度姿を消し、鋏と反古紙を手に戻って、無造作に折り取った数本の菊の枝をざっと包んで直江に渡した。 礼を言う直江に軽く会釈を返して、今度こそ奥へ引っ込む。 無意識に胸元に抱え込んだ花がなければ、陽射しが見せた幻かと疑うような出逢いだった。 |