『 残月楼夜話 ―望郷― 』より

こちらに背を向けて立つ彼の、ほっそりとしたうなじが匂い立つようだった。
さらりと羽織った夏物の単、その襟から覗く肌があまりにも眩しくて、思わず生唾を飲み後ろから抱きしめた。
「な、直江?」
驚いたように声を上げるのにかまわず、首筋に顔を埋めて馨しい香気を思う存分貪った。
彼の肌の匂いとかすかな樟脳の匂い、それに焚きしめられた香の残り香。
馴染んだ香りが、一気に昔へと引き戻す。あの離れで高耶と過ごした懐かしい時に。

衝動のままにくちづけた。 その瞬間、ぴくりと彼の身体に震えが走る。
唇が触れたのは人目にもたつ襟足部分、 痕がついたらどうしようと、そんな困惑が顔を見ずとも伝わったから、ただ柔らかく食み舌先でまさぐった。 何も怖いことはない、意に添わないことは決してしないと教えるように。 やがて彼がふっと強張りを解いて、回した腕にその身を預けてくれるまで。
ふたりしばらくそうして、黙って互いの鼓動と体温とを感じていた。






みずみずしい高耶さんにクラクラ…v
直江…。よくぞ耐えてる…。