only dreaming  - 10 -


今のところ、この住いに寝室はひとつ、ベッドもひとつ。
ケーキのおかげで会話の弾んだひとときを過ごし、さてそろそろ休みましょうかと腰を上げたとたんに、高耶の顔が強張った。
理由は聞かなくても解っているから、さりげない口調で付け加えた。
「無理強いする気はありませんよ。今日はもう嫌だと思うなら、そのまま眠ってくれていい。……ただし私と添い寝ですけれど。 それと、おやすみのキスだけはさせてくださいね?」
見る見る真っ赤になったのは、羞恥のためかそれとも負けん気に火がついたせいだろうか。 本当に彼は解りやすいほど真っ直ぐだ。可哀想に、そのせいでますます深みにはまることに気づいていない。

果たして、ベッドに浅く腰を掛けていた高耶は、直江が寝室のドアを開けるなり、挑むような視線を投げかけてきた。
「いいの?本当に?」
彼の隣に座り、間近に見つめて問い掛ける。
こくりと高耶は頷いて、まるでキスを強請るみたいに顔を仰のける。
半眼になった切れ長の瞳、うすく開いた唇。 誘われるまま、唇を重ねて、褥に押し倒した。
「悪い子だ。いったいどこでそんな誘い方を覚えたんです?」
ゆるく頭を振るのに、所かまわずキスを降らせる。睫毛に、頬に、鼻の頭に、可愛らしい耳朶に、そしてのけ反った顎の先に。 そのまま喉を滑らせていけば、鎖骨を象る窪みは、すぐ。
浮き出た骨に舌を這わせながら、パジャマのボタンをひとつひとつ外していった。
露わにした、まだ肉付きの薄い青年の胸。つつましやかに控えた乳首の間に浮かび上がる鮮やかな赤に目を奪われる。
「本当に綺麗な色だ……」
慈しむように指先でなぞって、うっとりと直江が呟く。
「あなたを手に入れた証がどうしても欲しくて。昨夜あなたに無断で標してしまった……。でも、かまいませんよね? これを知っているのはあなたと私。そして見るのも触れるのも私だけです。 どうか、毎日確かめさせて。この色が消えないように。何時だって、何度だって新しく付け直すから……」
改めて口づける。
高耶の身体がぴくんと震えた。小さな吐息も聞こえた気がした。
「……実はキスマークはもう一箇所あるんです。……気づいていた?こっちも確かめていい?」
返事も待たずに、直江は高耶のパジャマに手を掛ける。そして下着ごと一気に引きずり落とした。
「ッ!」
再び曝される高耶の裸身。
身を捩って隠そうとするのを許さず、直江は内腿に手を掛けて股を裂くように大きく広げる。
「ほら、此処に」
黒々とした茂みの際、抜けるように白い鼠蹊の肌に、赤い印が浮き出ていた。
「やッ…!!」
反射的に抗うのは、むしろ自然な動作だろう。そうでなければ面白くない。少しは歯応えがなくては。 直江も押さえる手に力を込めて高耶を往なす。 膂力の差は歴然としていて、そのままゆっくり顔を近づけ、刻印に重ねるように吸い上げた。
「―――っ!」


痛みを堪えるかのように一瞬高耶の腰が浮いて、また沈んだ。
その拍子に高耶のオスがふるんと揺れる。容を変えて勃ち上がりはじめたソレを見て、直江が微笑った。獰猛な獣のような笑みだった。
「キスで感じてくれたんですね。嬉しいです、高耶さん。さあ、このやんちゃな坊やをどうしましょうか?言ってくれたら、その通りにしてあげる。 だから、あなたの口から俺に教えて」
「…ぁ……」
縋るように見つめても、男の笑みは変わらない。高耶が自分からはしたなくせがむのを、ただじっと待っている。
どろりと身体の奥で何かが動く。いっとき霧散したように思えた欲望がまたじわじわと凝ってくる。
涙目になった顔を背け、ついに蚊の鳴くような声で高耶が言った。
「……昨日みたいに、シて……。直江の口で、シてほしい……」
「仰せのままに」
そうして、直江は高耶の望み通りにした。




直江めっ!
あんな高耶さんにこんなマネするなんてっっっ!


                             2019/010/12

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