言葉を違えず、高耶は夕暮れに戻ってきた。 黒い雷雲とともに、龍に転変した姿で。 ごろごろと雷鳴が轟き屋敷中の気配がざわつく中、轟音と眩い光芒を伴って、ひとすじの雷撃が天地を繋ぐ。皓く灼かれて盲いた視界が再び利くようになったとき、そこに高耶の姿があった。 豪雨に打たれながら、彼は笑っていた。頭をのけ反らせ、自ら起こしたこの荒天が愉しくてたまらぬように。 瞳には稲妻が宿ったかのような炯炯とした光。全身から発する荒ぶるオーラ。 白皙の貌に、紅を引いたような唇が言葉を刻む。あたりを睥睨する視線とともに。 「待たせたな、直江」 その視線を外せぬまま、ふらふらと腑抜けたように彼に近づく。 ……この人になら、今この場で魂ごと喰われてもいいと思った。 けれど、 「お帰りなさい、高耶さん。……それとも、景虎さまとお呼びしたほうが?」 無意識に『高耶』と呼びかけた一言で、鬼神のごときだった彼の表情が少し和らぐ。 「……好きにしろ」 その許しに直江も一気に距離を詰めて、思い切り、彼の体を抱きしめた。 「……こんなにびしょ濡れで。寒くはありませんか?風呂を立ててもらいましょうか?」 こんな時でも直江らしい、が、少々的外れの気遣いに、高耶がくすりと笑いを漏らした。背中に回した腕に力がこもる。 「……誰にものを言っている?そもそもが雲を起こしたのはこのオレだ。 けど、温まるのは悪くないな……、おまえ、温めてくれるか?」 耳朶を食まれるみたいに囁かれる、挑発的な言葉。 たまらない。 ぞくぞくする。 ごくりと唾を飲み込んで、 「御意」 恭しく、でも性急に彼の身体を抱き上げ、唇を重ねた。 |