直江地蔵ズ



(一)

昔々あるところに、貧しくともたいそう仲の良い兄妹がいましたとさ。
兄の名は高耶さんと、妹の名は美弥ちゃんといいました。
暮れも差し迫ったある日、高耶さんは言いました。
「美弥、正月くらい兄ちゃんが餅を食わせてやるからな!」
妹の嬉しそうな顔に送られて、高耶さんは編んだばかりの笠を売りに町に出かけて来たのでした。




(二)

ところが、町まで来ても近年の凶作続きのため笠など誰も目にも留めてくれません。
「ぼうず、みんな年を越すのが精一杯なんだ。悪いこたぁ言わねぇから早く帰んな。
凍えちまうぞ!」
空を見上げると、ちらちら雪が舞っているのが見えました。
「ごめんな…、美弥…。」
そう呟いて、高耶さんはとぼとぼ家路についたのでした。




(三)

帰り道も半ばに差し掛かった時に、ふと顔を見上げた高耶さんは6体のお地蔵さんに気が付きました。
「あれぇ?こんなんあったっけ?なんか変わってんの!」
なんと、そのお地蔵さんには、鳶色の髪が生えていたのです。
お顔は、とっても優しげです。
高耶さんは、なんとなく懐かしいような気がして手を合わせました。




(四)

「可哀相に、寒いだろう?
こんなんしか無いけど、オマエらにやるよ…。」
そう言って、高耶さんは、背中の笠を下ろしてお地蔵さんに1つずつ被せていきました。
お地蔵さんは、笠から伝わる高耶さんの体温に胸がキュ〜ンとしてしまいました。




(五)

ところが笠は5つしかありません。
高耶さんは、申し訳なさそうな顔をすると自分の頭巾を最後の1体に被らせてあげました。
「ワリィな?オレのお古でさ…。
これでカンベンしてくれよな…」
これは、『きゅ〜ん』どころじゃありません!
お地蔵さんは、その笑顔にすっかり虜になってしまいました。




(六)

しかし、そんなお地蔵さんたちの気持に、高耶さんが気がつくわけもありません。
「それじゃあな!」
そう言うと、高耶さんは帰っていってしまいました。




(七)

さて、その日の夜更け、しんしんと雪が降り積もる中、
「高耶さ〜ん、高耶さ〜ん!」
と、何処からか低音の心地良い声が聞こえてきました。
なんとそれは、さっきまでちんまりたたずんでいたお地蔵さんたちの声でした。
荷車には、米俵や海の幸、山の幸をたくさん載せて列になって歩いています。




(八)

もちろん、そんな夜遅くですから高耶さんはすっかりお眠の時間です。
美弥ちゃんと二人、すやすや眠ってたところへ「どすん!どすん!」と、ものすごい音が聞こえました。
二人は、
「なんだ、なんだ!」
と、飛び起きて、様子を見ようと外に出ました。